(11) 『こぐまのくまくん』
(ミナリック作、松岡享子訳、福音館書店、1050円)
 こぐまのくまくんは、かあさんぐまに、「ぼく、これから月へいくんだ」と宣言する。小さな木のてっぺんから、目をつぶって「えいっ!」と飛ぶと、そこは「ちきゅうとおんなじみたいな」ところ。歩いていくと、「ぼくのうちとそっくりのうち」があり、かあさんぐまが出てきて、「これはこれは、どちらさまでしょう?ちきゅうからいらしたくまさんですか?」と迎えてくれる。
 こぐまのごっこ遊びを受け止めて、ぴったりな台詞を返してくれるかと思えば、遊びつかれたときには優しく抱きしめてくれるかあさんぐま。四つの短いお話は、どれもユーモラスであたたかい親子のやりとりからできていて、言葉のキャッチボールの楽しさを教えてくれる。 
(2002/10/6)

(12) 『イギリスとアイルランドの昔話』
(石井桃子編訳、福音館書店、750円)
 テレビもラジオもなかった時代、子どもたちの大きな楽しみは、大人が語ってくれる昔話を聞くことだった。そんな習慣がなくなったのはさびしいが、そのかわり私たちは本の助けを借りて、日本の昔話だけでなく、世界じゅうの昔話を楽しむことができる。
 ひと口に昔話と言っても、国によって味わいはいろいろだが、イギリスやアイルランドの昔話の特徴は、巨人や妖精が活躍すること。「ジャックとマメの木」「トム・ティット・トット」など、手に汗を握るおもしろさだ。ほかにも、思わず笑ってしまうお話や、ちょっと不思議な話、だれかに聞かせたくなるお話がたくさん。磨きぬかれたリズミカルな訳文が心地よい。 
(2002/10/6)

(13) 『ふたりのロッテ』
(ケストナー作、高橋健二訳、岩波書店、1560円)
 子どもというのは無力なもので、死んだと聞かされていたお父さんが生きていて、遠いよその町にいると知っても、会いにいくことなんかできっこない。だがロッテとルイーゼは、だれが見ても見分けのつかない双子なので、夏休みに偶然出会って入れ替わり、離婚してはなればなれになったお父さん、お母さんに会いに行くことができた。
 知らない町でほかの子のふりをして暮らす大冒険は、スリル満点。ときには九つの子どものほうが、おろおろする大人たちよりよっぽどしっかりしていて、痛快だ。テンポの速い展開のなかにも、子どもの心情がしっかり織り込まれているので、ハッピーエンドが甘すぎず、心から満足できる。(2002/10/20)

(14) 『ホビットの冒険』上下
(トールキン作、瀬田貞二訳、岩波書店、720円、680円)
 イギリスがファンタジーの宝庫なのは、立派な大人たちが、遊ぶときには本気で遊ぶという、すてきな習慣があるからだ。言語学者だったトールキンの遊びは、自分で言葉を作り、それを話す者たちの世界を作り、神話や伝説まで作って楽しむことだった。
 でもそれだけでは、お話ははじまらない。そこで登場したのが、のんびり屋のくせに冒険にあこがれているホビットのビルボだった。魔法使いに誘われて、つい参加した冒険の旅で、後悔を重ねながらもたくましく成長していくビルボ。最後には、不思議な指輪を持って故郷へ帰るが、やがてはそれが二十世紀最大のファンタジー『指輪物語』に発展することになろうとは、作者自身でさえ予想もしていなかったにちがいない。(2002/10/20)

(15) 『くまのテディ・ロビンソン』
(ロビンソン作、坪井郁美訳、福音館書店、1500円)
 くまのぬいぐるみを主人公にした幼年童話は数多いが、大人がこんなに楽しめる作品はまたとあるまい。テディ・ロビンソンは、デボラという女の子のくまで、デボラが入院すればついていくし、買物にもいっしょにいく。そして、お店のカウンターから落ちて迷子になるなど、さまざまな冒険をする。
 おもしろいのは、よその子や大人から見たテディ・ロビンソンは、ただのぬいぐるみだけれど、デボラと二人のあいだでは、ちゃんと生きていることだ。たとえば病院で、よくなったデボラといっしょに歩きまわらないのは、入院用の新しいねまきが気に入って「ねていることにし」たからだ。このしゃれた言い抜けには思わずにやっとさせられて、だれかに読み聞かせたくなってしまう。(2002/11/3)

(16) 『冒険者たち』
(斎藤惇夫作、岩波書店、760円)
 海にあこがれて、港まで遊びにいったドブネズミのガンバは、イタチに支配されつつある島から助けを求めにきた、忠太というネズミに出会う。世馴れた船乗りネズミたちは助力を断るが、無鉄砲でお人好しのガンバは、放っておけずに島へと旅立つ。ところが船が動きだすと、行くのを断ったはずの仲間があちこちから姿を現し、結局、総勢十六ぴきで強敵に立ち向かうことになる。
 この物語の魅力は、なんといっても、ネズミたち一ぴき一ぴきが、のんびり屋だったり、ロマンティストだったりと、じつに人間味豊かに描かれているということだ。そのネズミたちが知恵を出し合い、個性を活かしつつ、現実のネズミにもできそうなやり方でむずかしい課題を乗り越えていくありさまは、読みごたえ十分だ。(2002/11/3)




(17)『長い長いお医者さんの話』
(チャペック作、中野好夫訳、岩波書店、720円)
 いつもみんなを困らせている魔法使いが、ウメの種をのどに詰まらせた。呼ばれたお医者さんは、すぐ原因に気がついたが、ちょっとからかってこらしめようと、おおまじめに診察をし、手術会議を開くといって、仲間の医者たちを呼び集める。集まった医者たちは、自分が治した患者たちの話をして聞かせるが、それがリューマチになったカッパや、骨折した妖精の話だからおもしろい。
 作者はチェコを代表する大作家。私たちのそばにもいそうな郵便屋さんやおまわりさんが、おとぎ話の生きものたちに出会う九編の物語は、ピリッとした風刺とあたたかい人間愛がみごとにまじりあった、この人ならではの味わいだ。兄によるペン描きの挿絵もユーモラスで、物語にぴったり。(2002/11/17)



(18)『大きな森の小さな家』
(ワイルダー作、恩地三保子訳、福音館書店、600円)
 開拓者の娘としてアメリカに育った作者が、子ども時代から新婚時代までの思い出をつづった、貴重な記録の第一巻。この巻では、主人公のローラはまだ五つで、クマやシカやオオカミのいる大きな森のなかの一軒家に家族五人で住んでいる。食べものはとうさんの狩りの獲物や、畑の野菜。ハムもソーセージもチーズも自分たちで作る。
 もちろん不便な暮らしだが、木屑を運んでくんせい作りを手伝い、かあさんのバター作りを熱心に見物するローラの、なんと楽しそうなこと。素朴で力強いこんな暮らしは、実際にはもう体験できないが、物語のなかでしっかり味わっておくだけでも、生きる力がたくわえられる。とうさんが聞かせてくれる愉快なお話が、あちこちにはさんであるのも楽しい。(2002/11/17)



(19)『クリスマス人形のねがい』
(ゴッデン作、掛川恭子訳、岩波書店、2000円)
 クリスマスなのに、施設ですごすしかない孤児のアイビーは、「あたし、おばあちゃんのところへ行くんだ」と空想して、知らない町をさまよう。その町のおもちゃ屋さんのウインドウには、売れ残ったお人形のホリーがいた。ガラスごしに出会った二人は、お互いをひと目で気に入るが、二人とも、できるのはただ願うことだけ。
 小さな出来事を重ねながら、ていねいに進んでいく物語をたどることで、読者も二人の切ない願いを共有し、ハッピーエンドが少しずつ近づいてくる喜びに、胸をおどらせることができる。
 クーニーによる美しい挿絵がたくさんついて、絵本のような体裁だが、しっかりした物語というものの力が存分に味わえる一冊である。(2002/12/1)

(20)『クルミわりとネズミの王さま』
(ホフマン作、上田真而子訳、岩波書店、640円)
 日本でもバレエがずいぶん盛んになり、クリスマスが近づくと、チャイコフスキーのすてきな音楽による『クルミわり人形』が上演されるのも、珍しいことではなくなってきた。このバレエはロシアのものだが、原作はドイツで書かれた物語。主人公の少女が、プレゼントのクルミわり人形をひと目で大好きになり、人形とネズミとの戦いに巻き込まれるという発端はおなじだが、そのあとのお話はもっと奥が深く、夢と現実との境目に生きる子どもの心を、みごとに描きだしている。
 翻訳がまたすばらしく、すんなりと心に入ってくるので、朗読したり耳を傾けたりしていれば、大人でもファンタジーの世界にするっとはいりこめるだろう。ぜひ冬休みに家族で楽しんでほしい。(2002/12/1)
           

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山陽新聞 第1・第3日曜日連載

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