この10年をふりかえって


                                            脇  明子
     (この記事は、会報第50号から転載したものです。)

 1998年5月9日に30名あまりで発足した「岡山子どもの本の会」も、いつしか満10歳を迎えました。この10年、すばらしいお話をしてくださった講師の方々、例会の準備や会報の編集などでがんばってきた運営委員のみなさん、地味な内容の例会のときにも、熱心に参加してくださる会員のみなさん、遠方なのに会報を楽しみにして会員になってくださった方々など、ほんとにたくさんの方に支えていただきました。最初から発足を喜ばれて、会報や会員証に楽しいデザインをプレゼントしてくださっている小野かおるさん、いつも相談相手になってはげましてくださる斎藤惇夫さんには、とりわけ大きなお力をいただいております。本当にありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いいたします。

 いま、これを書くにあたって、十年前に書いた創刊のご挨拶を読み返すにつけ、これがたった10年前のことなのかと、いろんな意味で信じられない気がしています。子どもと本にかかわることだけを見ても、10年前には「子どもの読書活動の推進に関する法律」などありませんでしたし、ブックスタートも日本では未知の存在でした。一方、テレビ、ゲームなどが子どもたちの時間を横取りしているとは感じていても、それらが子どもの発達そのものに及ぼす影響については、甘い認識しかありませんでしたし、小学生までがケータイでネット検索をする時代が来ようとは、思ってもいませんでした。日本小児科医会、日本小児科学会が、子どものメディア接触の問題についての提言を出してくださったのは、2004年のことで、それらに携わられた小児科医の片岡直樹さん、田沢雄作さんとの出会いも、私たちの会の進むべき道を探っていく上で、大きな意味を持つ出来事でした。

 私自身は、2005年に『読む力は生きる力』を、2008年には『物語が生きる力を育てる』を出版し、驚くほど大きな反響をいただいておりますが、それはまさに「岡山子どもの本の会」で講師のみなさまのお話を聞くとともに、会の運営に力を注いでくれている年齢も職種もまちまちのメンバーたちと、現場での悩みや疑問について議論を重ねてきたおかげにほかなりませせん。子どもを観察する目にかけてはすばらしい仲間たちから出された問題を、理論的に納得できるようにきちんと解明しようと思うと、私はそれまでの守備範囲から踏み出して、懸命に勉強し、考え抜かねばなりませんでした。それどころか、「子どもの本の会」でありながら、「大切なのは子どもがちゃんと育つことであって、読書はその手段のひとつにすぎない」と認めないかぎり、一歩も先へ進めないということを、思い知らされることにもなりました。

 しかし、そう納得したとたんに、それまでは壁のようにそそり立っていた難問が、するすると解けるようになりました。子どもがちゃんと育つのなら読書はしなくていいけれど、いまの世のなかで子どもがちゃんと育つには何が必要なのか、そもそも「ちゃんと育つ」とはどういうことか、と考えていくと、読書はなぜ必要なのかがはっきりしてきます。そして、「とにかく読めばいい」のではなく、どんな読書であるかが大事なのだということも、おのずからはっきりしてきます。会の発足当時には、人気があるけれどもいいとは思えない本のどこがどうよくないのかが、どうしてもうまく説明できなくて頭をかかえたものでしたが、いまではそれが嘘のようです。

 子どもが自分で本当にいい本を選べるようになるまでは、大人が子どものために本を選んだり、選ぶのを手伝ったりすることが必要不可欠なのですが、ふしぎなことに、選書など必要ない、子どもには読みたいものを自由に読ませるべきだ、という意見もあいかわらず根強いようです。そんななかで、この8月に岡山県教育委員会から委託を受けて、3日にわたる「おかやま選書セミナー」を津山市で実施できたことは、この10年の大きな実りの一つでした。これは「岡山子どもの本の会」で行ったわけではなく、べつに実行委員会を立ち上げての実施でしたが、講師をつとめてくれたのも資料作りにがんばってくれたのも、会の仲間たちでした。しかも、会の発足当時からのベテラン勢に加わって、まさにこの会の活動のなかで育ってきた若い人たちの何人かが講師をつとめてくれたのは、この上なく大きな喜びです(2日目のセミナーを終えての記念写真をお目にかけます)。「選書セミナー」は来年総社でも行われ、そこでも若い人たちが活躍してくれることになっています。幼稚園、保育園、小学校、中学校、高校、大学、図書館、公民館、家庭文庫、ボランティア、学生と、活動の場の幅が広いことが私たちの会の強みですが、いろんな現場で若い人たちがぐんぐん育っていってくれれば、こんなにうれしいことはありません。

   

 会報『ぐんぐんぐん』も、めでたく50号を迎えることになりましたが、それを記念して、「岡山子どもの本の会推薦絵本リスト」をお届けすることにいたしました。じつはこれも選書セミナーのために用意した資料をまとめなおしたものですが、例会でいろんな角度から絵本を取り上げ、検討してきたことが、選書にも解説にも盛りこまれております。


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