★小樽のブックスタート・カウントダウン(2003/2/3)

                                    
脇 明子

 みなさんは、北海道小樽市にある、絵本・児童文学研究センターをご存じでしょうか。最初は民間の小さな団体(現在は特定非営利活動法人)としてスタートし、大人のための児童文化講座をもう15年にわたって続けているほか、臨床心理学者の河合隼雄さんを選考委員長に招いて児童文学ファンタジー大賞の選考を行うなど、多彩な活動をくりひろげています。ちなみに私も、この賞の選考委員として、5年前から毎年小樽へ通っています。

 小樽の活動でユニークなのは、もともと絵本や児童文学に関心の高い女性たちだけでなく、いろんな仕事に携わっている男性たちが、積極的に会の活動に参加していることです。市長さん、ホテルやタクシー会社の経営者、お医者さんなど、いろんな方たちが、単に名前を連ねたり、経済的支援をしたりするだけでなく、楽しそうに催しに参加していらっしゃる様子は、これからの社会をどう作っていくかを考える上で、とても頼もしいモデルだと思います。

 さて、その小樽でも、昨年5月に小樽市ブックスタート協議会が発足し、この4月からいよいよブックスタートがはじまります。ただ、小樽では、ブックスタート支援センターのパックを使うのではなく、センターが15年に渡って蓄積してきた知識や人の輪を活用して、独自のブックスタートを計画しているようです。

 今回、いよいよはじまるブックスタートについてのお知らせが届きましたので、興味深いところを少しご紹介しましょう。

 小樽市ブックスタート協議会の会長さんは、北海道済生会西小樽病院院長で小児科のお医者さまである、千葉峻三先生です。小樽では最初、ブックスタートに欠かせない図書館員が動ける日と、乳児健診の日とが一致せず、それが大きな壁になっていたそうですが、小児科のお医者さまの力強いバックアップで健診の日を動かすことができ、ようやくブックスタートが可能になったと聞いています。
 千葉先生は、「赤ちゃんが生まれたときには、もう脳細胞が150〜200億個できていますから、生後7か月から始めるブックスタートは決して早いことはありません。精神や心というものがつくられるその時期に、親子のスキンシップを通して、絵本を読んであげることは非常に意味があることなんです」とおっしゃっています。

 小樽のブックスタートは、絵本・児童文学研究センターと、小樽南ロータリークラブの資金援助で行われることになっているそうです。小樽南ロータリークラブの会長さんは、薬局を経営していらっしゃる相馬哲也さんという方ですが、「お金や物」での奉仕だけでいいのかと思っていたところへ、絵本・児童文学研究センター理事長の工藤左千夫さんからブックスタートの計画を聞いて、「まさしく、これだ!」と感じたと言っておられます。それは、未来を担う子どもたちへの「心の奉仕」であり、近隣のクラブや団体が一つになって、地域社会へ貢献できる活動だったからです。

 そのほか興味深いのは、赤ちゃんが生まれるよりも前、保健所で行う妊娠時検診のときから、子どもの本の必要性について説明していく計画だということです。これについては、くわしい様子がわかったら、またお知らせします。


★イギリスのブックスタート最新情報(2003.2.1)

 ブックスタートは、1992年にイギリスではじまった運動ですが、いまそれがどうなっているかについて、ブックスタート支援センターの佐藤いづみさんから、お知らせが届きました。

 イギリスのブックスタートは、最初はバーミンガムで試験的にはじまり、最初の6年間には全国で二百数十ある自治体のうち、57地域に広がっていたそうです。その段階で、大手スーパーマーケットチェーンのセインズベリーズがスポンサーとなり、パックが無料で配付できるようになって、運動は一挙に92%の地域にまで広がりました。しかし、セインズベリーズの援助はミレニアム記念事業で、2001年2月には終了し、その後の厳しい状況をどう乗り切っていけるのかが、懸念されていました。

 今回のお知らせによりますと、たしかに援助が終了して1年間は、とても大変だったようです。しかし、この運動をなんとか続けていきたいと願うさまざまなグループ、関係機関の新しいパートナーシップが築かれ、現在では87%の自治体がブックスタートを実施しているとのことです。具体的には、ブックトラストという団体が、さまざまな基金団体、財団、地方自治体、政府組織、児童書出版社などの支援を受けて、ブックスタート・パックを廉価で制作し、実施自治体がそのコストを負担するという形がとられているようです。

 またイギリスでは、最初はブックスタートの教育的効果に期待する傾向が強かったのですが、最近では、「人と人が向きあって、言葉を交わしながら気持ちを伝えあうこと、絵本を仲立ちとして持つこの素敵な時間を、すべての赤ちゃんに届けること」という基本理念が、広く理解されるようになっているとのことです。

 このほか、ブックスタートについての最新情報をお求めの方は、ブックスタート支援センターのサイトをごらんになってください。


★国民文化祭でブックスタートのシンポジウム
(2002.10.26〜28)
 10月に鳥取県で開催された第17回国民文化祭で、ブックスタートについてのシンポジウムが行われ、岡山県からも、早島町立図書館の室井七美さんが、パネリストとして参加されました。室井さんからの報告をいただきましたので、お届けします。

 

 国民文化祭は、文化庁などの主催による、文化の国体とも言われる催しですが、今年はそのテーマのひとつとして「出版文化」が取り上げられました。これは国民文化祭でははじめてのことだそうです。 ブックスタートのことは、8つの分科会のうちの第1分科会で取り上げられました。最初に基調講演をなさったのは、京都大学霊長類研究所助教授の正高信男先生で、赤ちゃんと言葉、絵本について、実験などからわかることを、ビデオを使いながら説明してくださいました。
 次に、ブックスタート実施にむけて取り組んでいる自治体関係者を対象として、ブックスタート支援センターの佐藤いづみさんによる個別の説明会が開かれ、そのあと、約100名ほどの参加者を集めてのパネルディスカッションが開催されました。室井もパネリストの一人として、早島町の事例を中心に発表を行いましたが、9月に開かれた岡山県主催のブックスタート研修会の内容や、会が催された経緯などについて、質問が寄せられました。
 最後に円卓式の会場に移り、ざっくばらんな情報交換会をしたところ、20名ほどの方が残ってくださり、熱心な話し合いができました。各地で懸命にブックスタートに取り組まれている方々との交流ができ、「本当にいまの日本を変えていける有効な方法としては、ブックスタートくらいしかないのではないか」といった意見や、「県を越えて関係者が意見を交換する場を設けたい」という構想なども出てきました。 今後さらに、ブックスタートをきちんとした形で日本全国に浸透させ、国の未来を担う子どもたちに質の高い文化を伝えていく義務と必要性を確認した分科会となりました。
                                  早島町立図書館司書  室井七美

ブックスタート研修会(2002.9.3)
 2002年9月3日、岡山県生涯学習センターに於いて、岡山県教育委員会の主催でブックスタート研修会が行われ、岡山県内の約60の自治体から約130名の参加がありました。この研修会では、岡山子どもの本の会代表でもあるノートルダム清心女子大学の脇 明子さん、ブックスタート支援センターの佐藤いづみさんが講演を行い、すでにブックスタートを実施している早島町と西粟倉村の報告がありました。各自治体の関心も非常に高く、来年度からの実施を検討しているところもかなりあるようです。

★百々佑利子さんの講演会(2002.3.23)
 『本のよろこびを子どもたちに』……ドロシー・バトラーの読書教育……
 バトラーさんの仕事は、ブックスタート運動にも大きな影響を与えています。岡山子どもの本の会では2002年3月23日に、日本女子大学の百々佑利子さんをお招きし、バトラーさんの読書教育のことを、くわしく話していただきました。この講演会の報告は、『ぐんぐんぐん』 bP9に、詳しく掲載されています。

★ブックスタート勉強会(2001.3.24)
 岡山子どもの本の会では、「ブックスタート」の中心となって活躍しておられる、ブックスタート支援センター佐藤いづみさんを迎えて、2001年3月24日に勉強会を開きました。この勉強会の報告は、『ぐんぐんぐん』 bP5に掲載されています。




                              HOME

ブックスタート

邑久町 早島町 早島町 早島町図書館
★ブックスタートとは
 子ども読書年(2000年)を機会に、「ブックスタート」という新しい試みがはじまっています。これはイギリスで大きな成功をおさめている運動で、赤ちゃんの健診の際に、赤ちゃん絵本と読み聞かせについてのパンフレット、図書館の案内などから成る「ブックスタート・パック」を、図書館員などが一人一人にアドバイスしながら渡すというものです。日本では、2000年11月に東京の杉並区で試験実施が行われたのが最初でしたが、全国的に急速に広がり、ブックスタート支援センターが中心となって、2002年度には300を越す自治体で実施されています。

★岡山でもブックスタートが始まっています
 岡山県では、2001年から西粟倉村と邑久町で、2002年春からは早島町でも、ブックスタートが始まっています。地域のみなさんの関心も高く、とても好評のようです。
 2002年7月6日の例会では、早島町図書館の室井さんに早島町のブックスタートの報告をしてもらいました。6カ月の赤ちゃんでも、絵本に反応し、図書館に赤ちゃん連れで来るお母さんが増えたということでした。

HOME 本棚の宝物 赤ちゃん絵本