お知らせ
日本小児科医会から、メディアとの長時間の接触が子どもの心身に悪影響を及ぼしていることについての提言が出されました。
「子どもとメディア」の間題に対する提言
社団法人 日本小児科医会
「子どもとメディア」対策委員会
起草 2003.10.17.再起草 5回
最終案 2003.12.13.最終原稿 2004.1.26
わが国でテレビ放送が開始されてから50年が経過しました。メディアの各種機器とシステムは、急速な勢いで発達し普及しています。今や国民の6割がパソコンや携帯電話を使い、わが国も本格的なネット社会に突入しました。今後、デジタル技術の進歩はこのネット社会をますます複雑化し、人類はこの中で生活を営む時代に進みつつあります。これからもメディアは発達し多様化して、そのメディアとの長時間に及ぶ接触はいまだかつて人類が経験したことのないものとなり、心身の発達過程にある子どもへの影響が懸念されています。日本小児科医会の「子どもとメディア」対策委員会では、子どもに関係するすべての人々に、現代の子どもとメディアの問題を提起します。
ここで述べるメディアとはテレビ、ビデオ、テレビゲーム、携帯用ゲーム、インターネット、携帯電話などを意味します。特に、乳児や幼児期ではテレビやビデオ、学童期ではそれに加えてテレビゲームや携帯用ゲーム、思春期以降ではインターネットや携帯電話が問題となります。
T 提言
影響の一つめは、テレビ、ビデオ視聴を含むメディア接触の低年齢化、長時間化です。乳幼児期の子どもは、身近な人とのかかわりあい、そして遊びなどの実体験を重ねることによって、人間関係を築き、心と身体を成長させます。ところが乳児期からのメディア漬けの生活では、外遊びの機会を奪い、人とのかかわり体験の不足を招きます。実際、運動不足、睡眠不足そしてコミュニケーション能力の低下などを生じさせ、その結果、心身の発達の遅れや歪みが生じた事例が臨床の場から報告されています。このようなメディアの弊害は、ごく一部の影響を受けやすい個々の子どもの問題としてではなく、メディアが子ども全体に及ぼす影響の甚大さの警鐘と私たちはとらえています。特に象徴機能が未熟な2歳以下の子どもや、発達に問題のある子どものテレビ画面への早期接触や長時間化は、親子が顔をあわせ一緒に遊ぶ時間を奪い、言葉や心の発達を妨げます。
影響の二つめはメディアの内容です。メディアで流される情報は成長期の子どもに直接的な影響をもたらします。幼児期からの暴力映像への長時間接触が、後年の暴力的行動や事件に関係していることは、すでに明らかにされている事実です。メディアによって与えられる情報の質、その影響を問う必要があります。その一方でメディアを活用し、批判的な見方を含めて読み解く力(メディアリテラシー)を育てることが重要です。
私たち小児科医は、メディアによる子どもへの影響の重要性を認識し、メディア接触が日本の子どもたちの成長に及ぼす影響に配慮することの緊急性、必要性を強く社会にアピールします。そして子どもとメディアのより良い関係を作り出すために、子どもとメディアに関する以下の具体的提言を呈示します。
具体的提言
1. 2歳までのテレビ・ビデオ視聴は控えましょう。
2. 授乳中、食事中のテレビ・ビデオの視聴は止めましょう。
3. すべてのメディアへ接触する総時間を制限することが重要です。1日2時間までを
目安と考えます。テレビゲームは1日30分までを目安と考えます。
4. 子ども部屋にはテレビ、ビデオ、パーソナルコンピューターを置かないようにしま
しょう。
5. 保護者と子どもでメディアを上手に利用するルールをつくりましょう。
U.小児科医への提言:具体的な行動計画
私たちは、「子どもとメディア」の問題解決のため、小児科医が率先してこの問題を理解し、提言に基づき行動を開始することを望みます。そのためには、日本小児科医会が原動力となり、関係諸機関との連携を計り、具体的な行動をとることが重要と考え、以下の具体的な行動計画を提言します。
1 .日本小児科医会の活動
1)メディア教育の重要性を理解し、提言し、行動する指導者を育成する。
(1)日本小児科医会主催の「研修セミナー」及び「子どもの心研修会」で「子どもとメディアの問題」
を提起する。
(2)多様な職域が参加できる全国規模の「子どもとメディア」研究会の設立を企画あるいは支援を行う。
2)「子どもとメディア」問題の調査・啓発活動を行う。
(1)記者発表の機会を設定し、小児科医会の「子どもとメディア」に対する提言を公表する。
(2)「子どもとメディア」に関する提言を新聞広告する。
(3)「子ども週間」の全国統一テーマとして「子どもとメディア」を取り上げるように、関係機関に要望する。
(4)日本小児科医会雑誌へ「子どもとメディア」の問題に関する特集の掲載を企画提言する。
(5)日本医師会へ「子どもとメディア」問題を提言し、日本医師会雑誌への「子どもとメディア」問題の
掲載を企画提言する。
(6)「子どもとメディア」に関しての市民啓発パンフレット・ビデオを作製し、関係機関に配布する。
(7)「子どもとメディア」に関しての市民向け小冊子を刊行する。
(8)子どもとメディアの問題の調査を行う。
2.外来・病棟での活動
(1)メディア歴を問診表に組み入れる。
メディア歴を把握するための簡便な問診を作成し呈示する。
一般診療および乳幼児や就学時健診の場で利用する。
問診票からメディア歴を把握する。
メディアへの過剰で不適切な接触がある場合には、保護者と子どもに助言する。
(2)啓発教材を活用する。
啓発用のポスター・パンフレットを掲示、配布する。
啓発用の小冊子・書籍の閲覧及び貸し出しを行う。
(3)テレビ・ビデオ等を管理する。
放映する場合には内容を吟味する。
啓発ビデオを上映する。貸し出しを行う。
(4)絵本やおもちやを整備する。
保育士やボランディアを導入する。
読み聞かせや手遊びなどを提供する空間を整備する。
3.地域での活動
(1)出生前小児保健指導(プレネイタル・ビジット)、母親学級、乳幼児健診、講演会等の場を利用して、
子育て中の保護者への啓発を行う。
テレビ・ビデオを見ながらの育児やテレビ・ビデオに任せる育児の弊害を知らせる。
乳幼児の視聴の制限や「ノー・テレビ・デイ」等を勧める。
(2)子どもにかかわる人々(保育士、保健師、教諭等)を対象とした「子どもとメディアの問題」研修会を
開催する。
(3)保健、福祉、教育、医療等の関係機関に対して啓発活動を提言する。
保育園、幼稚園、小中学校、高校、大学、町内会、企業、医師会、自治体等に啓発活動を提案
する。
(4)地域でのプロモーション企画(ノー・テレビ・ディほか)を設定する、あるいは支援する。
(5)啓発教材を活用する。
啓発用のポスター・パンフレットを掲示、配布する。
啓発用の小冊子・書籍の閲覧及び貸し出しを行う。
啓発ビデオを上映する。貸し出しを行う。
4.広域社会活動として
新聞やテレビ等のマスメディアを利用し、「子どもとメディア」問題を啓発する。
5.そのほか
具体的な活動を実施するために、小児科医のための「子どもとメディア」に関するガイドラインの策定が必要である。そのために、小児科医会は種々の調査を企画し、実施する。
(社)日本小児科医会
「子どもとメディア」対策委員会
委 員 長 : 武居 正郎 (武居小児科医院)
副委員長: 田澤 雄作 (みやぎ県南中核病院)
委 員 : 家島 厚 (茨城県立こども福祉医療センター)
内海 裕美 (吉村小児科医院)
神山 潤 (前:東京医科歯科大学、
現:東京北社会保険病院会昌準備宴)
佐藤 和夫 (国立病院九州医療センター)
田中 英高 (大阪医科大学)
山本 あつ子(三井記念病院)
(社)日本小児科医会 理事: 豊原 清臣
(社)日本小児科医会 副会長: 保科 清
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